シリーズ『実践の糧』vol.42

掲載:『つなぐ』寝屋川市民たすけあいの会,第239号,2018年8月.

実践の糧」vol. 42

室田信一(むろた しんいち)

今回は、コミュニティで人を雇用するということについて考えたい。前回書いたように、かつての村落共同体ではそのリーダーがコミュニティのメンバーの考えをまとめ、活動をコーディネートする役割を担っていた。社会の分業化が進んだことにより、コミュニティを取りまとめたり、コーディネートする存在が雇用され、配置されるという方法が採られるようになった。では、そのコーディネーターの財源はどのように準備するものだろうか。

現在、日本の各地には生活支援コーディネーターという職員が雇用され配置されている。主として地域における高齢者の生活支援の仕組みづくりを担当する生活支援コーディネーターを雇用するその財源は介護保険から拠出されている。地域の支え合いの仕組みをつくることが被保険者の利益につながるという論理が、生活支援コーディネーターの人件費の根拠となっている。つまり、住民が費用を直接負担するものではない。

これに対して、住民が資金を直接拠出することでコーディネーターを雇用しているケースがある。都内のある大型団地にはおよそ1700世帯が居住している。この団地は自治会加入率が100%でかつ1世帯あたりの自治会費が月500円ということだ。自治会費は地域によって様々だが、年間2000円から3000円程度(月額200円〜300円)が一般的で、この団地のように1世帯あたり年間6000円も徴収する自治会は稀である。しかも加入率が100%ということだ。単純に計算すると、月額85万円、年間1020万円の会費収入があることになる。団地の集会所にはこの自治会の事務所が併設されていて、そこにはパートタイムのスタッフが2名雇用されている。支援が必要な住民への対応など、気になった住民が事務所に連絡すると職員が対応する体制が維持されている。

一方、神奈川県某所にある高層マンション群では、周辺9棟のマンションが会員となり、自治会に代わり住民活動を取りまとめるNPO法人が設置されている。9棟の会員マンションの住民は1世帯あたり月300円の会費を支払っている。9棟のマンション合計で約5000人の住民が居住しているため、単純に計算すると、月額150万円、年間1800万円の会費収入がある。入居者には会費の支払いが義務となるため、100%の会費徴収率となっている。会員マンションの一角にNPOの事務所があり、そこにはフルタイムのスタッフ1名とパートタイムのスタッフ数名が雇用されている。このNPOが主催する地域のハロウィンイベントや盆踊り大会は地域内外から数万人が参加する名物イベントとなっている。

上記2つの事例は、その内容こそ異なるが、会費収入によって地域の中にコーディネーターの配置を可能にしているという点では共通する。住民が会費を収め、コーディネーターを雇用することで、住民にとって必要なケアを提供し、コミュニティを一つにまとめるためのイベントを開催している。同様の仕組みが他の地域でも実現可能なことを示唆してくれる。

昨今、政府は、住民の互助活動を強化するためにコーディネーターを配置する政策を推進している。そうした政府の財源は、うまく活用することで地域の住民活動の起爆剤となるだろう。しかし政府が予算を削減し、コーディネーターを雇用できなくなった時に地域の取り組みが停滞するかもしれない。その時に、住民が自分たちで資金を拠出してコーディネーターを雇用するという発想になれるだろうか。地域におけるお金の流れを改めて考える時期に来ている。

※掲載原稿と若干変更する場合があります。

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