シリーズ『実践の糧』vol. 5

掲載:『つなぐ』寝屋川市民たすけあいの会,第202号,2012年6月.

実践の糧」vol. 5

室田信一(むろた しんいち)


 今回は「動員」について考えてみたい。動員とはある目的のために人を集めることである。なぜ急にそのようなテーマを設定するかというと、最近『動員の革命』(津田大介)なる本が世間(特に若者の間)で注目されているからである。この本は、「アラブの春」や「ウォール街を占拠せよ」、また国内でいえば反・脱原発運動などの事例を挙げ、ソーシャルメディア(TwitterやFacebookなど)によって多くの人が動員され、大衆運動が世界各地で政治的インパクトを生み出している実態を描き出している。一昔前の動員のあり方は、組織の政治的影響力を維持するために集会などにメンバーを動員するものだが、そのように形骸化された動員に対して、ソーシャルメディアを使った動員は、メッセージに共感した個人が能動的に集会に参加する。それはあたかもお祭り騒ぎのようなにぎわいだという。

 私がアメリカのニューヨーク市でコミュニティ・オーガナイザーという仕事に就いていたことは連載の最初に述べたと思う。当時、別のNPOでコミュニティ・オーガナイザーとして勤務していた私の知人が、先の「ウォール街を占拠せよ」におけるスポークス・パーソンとして頻繁にメディアに登場し、運動の経緯やメッセージを発信していた。彼に限らず、実は多くのコミュニティ・オーガナイザー達が「ウォール街を占拠せよ」の活動に関与していた。彼(女)らは動員のプロであり、運動のプロデューサーである。

 私もかつては月に一度のペースでコミュニティのメンバー数十名を集会などに動員していた。その動員方法は意外と奥が深い。組合活動や地縁活動の動員にみられる、「各支部が必ず1名を動員すること」といった動員ではなく、あくまでも合意に基づく「参加」である。では、どのように参加を募るのか。それは対話であり、学び合いであり、リーダーシップの養成である。自分一人ではどうすることもできない社会の問題についてメンバー同士で意識を共有する機会を設け、意見を出し合う。集会に参加するという行為が、自分が目指す社会の形成に結びつくということを確認してはじめて、その人は動員されるのである。

 ソーシャルメディアを介して多くの人が動員されることで、社会的なインパクトが生み出されていることは、近年の運動の特徴かもしれない。しかし、その裏ではコミュニティ・オーガナイザーが綿密な計画を立て、対話によって紡ぎだされたネットワークを介して、運動の卵を育てている。

 クリックの蓄積だけでは社会は変わらないし、そのような「革命」は結局良い結果を生み出さないだろう。

※掲載原稿と若干変更する場合があります。

実践の糧

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