アメリカのNPO

掲載:『日本都市計画学会関西支部だより』23,2009年3月,11.
「アメリカのNPO:進化するCBO事情」

室田信一(同志社大学大学院/日本学術振興会)


アメリカでコミュニティ・ブーム再来!?

アメリカでオバマ新政権が誕生した。オバマ大統領が、以前コミュニティ・オーガナイザーであったこと、彼の選挙活動が草の根のボランティア活動によって支えられていたこともあり、全米で「コミュニティ」に注目が集まっている。

古くはトクヴィルによって紹介された農村コミュニティ、ジェーン・ジェイコブスの考えた都市コミュニティ、近年ではパットナムによって示されたアメリカのコミュニティと、アメリカのコミュニティ像は多様な形態で日本に紹介されてきた。また、情報化社会においては、ヴァーチャル・コミュニティの存在も忘れてはならないだろう。オバマ大統領の選挙活動の勝因は、草の根におけるボランティア活動とインターネットを用いた広報活動にあったといわれている。このように、アメリカのコミュニティ事情は常に変化に満ちているが、以下では、近年の動向の一側面を紹介することにする。

コミュニティ・ベースト・オーガニゼーション(CBO)とは

今回紹介するCBO(Community-based Organizations、ちなみに英語では、CBOsと表示されることが多い)とは、文字通りコミュニティを基盤に活動する団体のことである。CBOという呼称は、法的に位置づけられたものではなく、コミュニティを基盤に活動をおこなう民間組織の総称である。また、CBOは、政府の委託事業や補助事業に携わり、福祉や都市開発など公共性の高い活動に従事しているが、必ずしも非営利組織であるとは限らない。

CBOという言葉が一般的に用いられるようになったのは1960年代以降のことである。「貧困との戦い(War on Poverty)」と呼ばれる法律のもと、連邦政府による政策として、コミュニティ・アクション事業やモデル・シティ事業が推進された。それらの事業により、低所得者やマイノリティが多く居住する地区を中心に、住民参加を通したまちづくりがすすめられた。そうしたまちづくり事業に対して、連邦政府の補助金が提供されたことも助け、1960年代以降、特定の地理的コミュニティを基盤に、都市開発や、住宅開発、職業訓練、雇用開発などに従事する組織が増加した。

コミュニティ・ディベロップメント・コーポレーション(CDC)の興隆

そのようにして、まちづくりを推進するために新たに設立された団体の多くは、CDC(Community Development Corporation)という非営利組織にあたる。当初CDCの財源の多くは、連邦政府による補助金によって賄われていたが、1980年代以降、政府からの補助金額は減少し、CDCの収入源は、政府事業の外部委託が主流となった。同じ政府から受け取るお金であっても、市場原理の中、委託契約の対価として受け取るお金の性格はまったく異なるものであった。CDCがその活動を継続するためには、他の団体と競い、より多くの契約を勝ち取ることが求められた。その結果、CDCの中には、組織の規模を著しく拡大するものや活動内容を多様化するものが出現した。

失われつつあるCBOの垣根

主として住宅開発や地域開発を推進してきたCDCであったが、近年その活動の幅を社会サービスの領域に広げつつある。そもそも、就労訓練や、住宅相談、法的な支援など、福祉的なサービスを提供することはCDCの事業の一環であった。しかし、近年では、住民のニーズにこたえるべく、移民向けの英語クラス(成人教育)や、高齢者向けのサービスなどを提供するCDCも増えてきている。住宅開発に限らず、アメリカでは近年、社会サービスの民間委託が急激に増加している。そうした事業の受託団体として、地域を基盤として活動する非営利組織であるCDCに白羽の矢があたったのである。

一方、CDCが社会サービスの提供に力を入れ始めたように、これまで社会サービスの提供を主な活動としてきたCBOが住宅開発に着手するようになったケースも少なくない。アメリカでは100年以上の歴史をもつCBOとしてセツルメントがあるが、そうしたセツルメントの中にも、低所得者向け住宅の指定管理を受けるものや、アフォーダブル住宅を開発するものも出てきた。

民間委託時代のCBO

近年のCBOの活動は、委託契約という文化によって特徴づけられている。その組織が掲げてきた理念や地域のニーズではなく、政府がその地域でどのような事業を外部委託しているかということが、CBOの活動内容を決定している。CBOという言葉も、「地域を基盤に活動する団体」という意味から、「地域住民に対してサービスを公平に提供する団体」というニュアンスへと変わりつつあるように思われる。オバマ大統領は、選挙活動で草の根活動の可能性を示してくれたが、今日のCBOに草の根の活動を展開する余力は残っているのだろうか。実は、CBOの中には、政治的な影響力を取り戻すべく新たな取り組みがすでに始まっていて、そこには、新たな技術も蓄積しつつある。今後も、アメリカのCBOの動向から目が離せない。

※掲載原稿と若干変更する場合があります。

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