シリーズ『実践の糧』vol. 20

掲載:『つなぐ』寝屋川市民たすけあいの会,第217号,2014年12月.

実践の糧」vol. 20

室田信一(むろた しんいち)


私がかつてコミュニティ・オーガナイザーとして働いていたニューヨーク市には市内各地で活動する非営利組織を支援する中間支援団体が数多く存在した。私は市内のセツルメントで移民コミュニティの支援に関わっていたため、日々の業務の中で移民支援や住宅支援、ホームレス支援、市民教育、セツルメントなどの領域に関わる中間支援団体と連携していた。

私自身、住宅関連の問題を取り扱う非営利組織の中間支援団体で1年間インターンシップをしていた経験がある。中間支援団体の主な業務は政府の政策分析や、会員組織への情報提供、研修プログラムの提供、政府や他の民間団体との交渉、会員組織のニーズの把握とそれらのニーズへの対策の検討など、日本の中間支援団体の業務とそれほど変わらない。日本の中間支援団体と最も異なるのはオーガナイザーが雇用されている中間支援団体があるという点であろう。中間支援団体のオーガナイザーの主な業務は、会員組織の職員と連携してキャンペーンを企画、推進することである。

当時、私が担当することになったキャンペーンは、市内各地の集合住宅における住宅改修に対する行政の監督業務を徹底させるというものだった。ニューヨーク市には、劣悪な住宅に対して、そのオーナーが改修を怠った時にそれを監視し、オーナーに対して警告することを専門にする部署がある。警告を受けたオーナーが改修をしない時には、罰金が科されることもあるが、実際にはそうした監督業務が徹底されていないことが多く、住民の中には劣悪な住環境に困っている人が少なくなかった。

中間支援団体のオーガナイザーとしての私の役割は、市内で住宅問題を取り扱っている団体を訪問し、各地にどのようなニーズがあるのかを確認することであった。各団体がキャンペーンを推進するにあたり、活動を牽引することになると思われる人材と連絡を取り、一人一人を訪問して、その担当者が抱いている問題意識について話を伺う。そこでは、お互いがどのような経緯でオーガナイザーとして働くことになったのか(当時の私はまだインターンではあったが)というような話を織り交ぜながら、お互いが共通の目的に向かって日々活動しているということを確認し、キャンペーンを推進するための協力体制を整えていった。

地域住民をオーガナイズするにしても、中間支援団体として会員組織や傘下の組織をオーガナイズするにしても、まずはそのキャンペーンや活動に参加するメンバーと個別の会議を重ね、信頼関係を構築することが基本である。しかし、組織として、とりわけ財政的な余裕がなくなると、次第にそうした丁寧な実践から遠ざかるようになってしまうことがある。それが悪循環の始まりということがわかっているにもかかわらず。

※掲載原稿と若干変更する場合があります。

実践の糧