[新刊紹介]地域福祉の国際比較

掲載:『同志社時報』第128号,2009年10月1日,84.
[新刊紹介]井岡勉・埋橋孝文編著
『地域福祉の国際比較―日韓・東アジアモデルの探索と西欧モデルの比較―(現代図書)』

評者:室田信一(同志社大学社会学研究科博士後期課程)


1980年代以降、多くの先進資本主義国家では地方分権化と社会サービスの民間委託が推進された。その結果、1990年代後半から地域における公的機関と民間組織の協働実践が社会福祉における主要なテーマとなった。よって、今日の文脈で地域福祉を語ることは、単なる民間によるボランタリーな活動の紹介や社会サービスの供給現場におけるルポルタージュにとどまらないのである。

そのような背景を踏まえ、欧州の福祉国家と日本を含む東アジアの国家における地域福祉実践の比較を通し、地域福祉の東アジアモデルを探求することを目的に実施された研究プロジェクトの成果が本書である。福祉国家の国際比較枠組を素地に、地域におけるガバナンスや地方分権、公民パートナーシップ、社会的孤立の問題とそれに対するソーシャルワークの実践などの切り口から各国の地域福祉を分析している。

編者らも認めるように、本書は地域福祉における国際比較枠組の検討および比較のための試論の域を脱していないかもしれない。また、今後は国際的に通用する地域福祉概念を操作化することも必要であろう。しかし、地域福祉が今日の社会福祉において重要なコンセプトであることは疑いのない事実であり、その実践は国民の生活にダイレクトに反映される。だからこそやや大胆であっても国際比較の観点から日本の実践を省みる作業は必要であろうし、また、本書はその第一歩として大変意義深い成果といえよう。

※掲載原稿と若干変更する場合があります。

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