シリーズ『実践の糧』vol. 11

掲載:『つなぐ』寝屋川市民たすけあいの会,第208号,2013年6月.

実践の糧」vol. 11

室田信一(むろた しんいち)


今回は私がはじめて自分一人で取り組んだ地域の実践について書きたいと思う。振り返ってみると、私は幼少期から自分が所属するコミュニティの仲間を巻き込み、新しい取り組みを始めることが好きだった。小学生の頃は、クラスメイトに声をかけて草野球を開催し、日程調整からスコアの記録、メンバーのリクルート、チームワークの円滑化、やる気を失いがちなメンバーのフォローまで、今考えると私一人で担当していた。私の関心は自分が野球を楽しむということではなく、みんなが野球を楽しむ「場」を設定することであり、その中で自分も楽しむことだった。地域における福祉活動に従事している人は、大なり小なり同様の価値観を共有しているかもしれない。

そんな私が学校等の組織の枠組みを飛び出し、一から自分で始めた実践は、私が住んでいたニューヨーク市クイーンズ区の地元で開催した映画祭だった。当時の私の問題関心は多文化共生であった。また、大学でメディアについて勉強していたこともあり、普段なかなかコミュニケーションをとることがない外国人同士が、自主制作映画をとおして普段自分たちが考えていることを表現し、その映画を地域で上映することで相互理解を図るというイベントを思いついた。

思い立ったが吉日、すぐにパソコンでボランティア募集のチラシを作成し、夕方のラッシュアワーの時に地下鉄の改札付近で配った。何百枚ものチラシを配ったが連絡をしてくれた人は3名だった。その3名と企画会議を毎週開き、自分たちで映画を作ったり、映画学校の学生に作品を提供してもらったりしながら、初年度は7作品を地域の教会の地下室で上映することができた。参加者は約80名だった。

参加者からは、同様のイベントを翌年も開催してほしいという声や、自分たちもボランティアをしたいという声があった。そんなこんなで、イベントの規模は毎年膨らみ、4年後にはボランティアだけで約20名、参加者は1000名を超すような一大イベントになり、地元のメディアにも取り上げられた。

そんなイベントの企画をとおして私が学んだことは「失敗することに成功する」ということである。何十人、何百人という人のボランタリーな意思によって推進されるイベントは、人の思いが衝突したり、空回りしたり、途切れてしまうことがある。しかし、大切なことは完璧を目指すのではなく、より多くの人が協力しない限り達成できないようなことを、そしてみんながハッピーになることを、失敗を恐れずにやってみるということである。結果的にたくさんの失敗を経験するかもしれないが、実は多くの人と一緒に失敗を克服する過程こそが真の意味での成功なのだということに気がつく。

それ以来、イベントを企画する時には、どうすれば上手に失敗できるかということを考えるようになった。

※掲載原稿と若干変更する場合があります。

実践の糧