掲載:『つなぐ』寝屋川市民たすけあいの会,第210号,2013年10月.
「実践の糧」vol. 13
室田信一(むろた しんいち)
アフリカ系アメリカ人初のメジャーリーガーであるジャッキー・ロビンソンを題材とした映画「42〜世界を変えた男」を観た。当時のアメリカにおける人種差別の状況が一人の野球選手の体験をとおして映し出されている。ロビンソンがメジャーリーグのデビューを果たした4月15日は、毎年すべてのメジャー選手が彼のつけていた背番号42をつけることでも有名である。背番号42はメジャーリーグで唯一全球団の永久欠番となっている。
激しい人種差別が存在していた当時のアメリカには、ニグロ・リーグと呼ばれるアフリカ系アメリカ人による野球リーグが存在していた。当時ニグロ・リーグの選手だったロビンソンをブルックリン・ドジャースへ呼び寄せたのは、ドジャースの会長のブランチ・リッキーであった。彼はロビンソンを起用することが野球会のみならずアメリカ社会全体に多くの波紋を呼ぶことを承知で、あえてスポーツにおける人種の統合を試みたのである。ちなみにリッキーは白人男性である。
映画の主役はロビンソンであるが、彼の活躍と栄光はリッキーの勇気ある行動なくしては成り立たなかったといえよう。リッキーもロビンソン同様に野球殿堂入りを果たしているという点において、彼の功績は野球界で認められているが、ロビンソンのように彼の名が広く語り継がれることはない。
白人以外で最初の南アフリカ共和国大統領となったネルソン・マンデラに関しても同様のストーリーが存在する。当時政治犯として収監されていたマンデラを釈放し、アパルトヘイト法を廃止し、マンデラ大統領誕生の筋道をつくったのは、外でもない白人系大統領であったフレデリック・デクラーク大統領であった。デクラークがマンデラと共にノーベル平和賞を受賞したことは知られているが、マンデラの功績の方が圧倒的に評価され、広く認知されている。
社会の中で大きな変革がおきるとき、とりわけその変革が社会的に影響力をもつ既存組織の変革を伴うとき、その組織外部からのはたらきかけはもちろん、組織内部からのはたらきかけが同時におこなわれる必要がある。そのようなはたらきかけを私は「内部・外部戦略」と呼んでいる。
外部から変革をおこすときは、組織内部に良心のある変革者が存在することを、内部から変革をおこすときは、外部に献身的な協力者が存在することを疑ってはいけない。内部にいるものは外部からの圧力があって初めて胸をはって内部変革をおこすことができるのである。そのように考えると、内部と外部の線引きを規定のものとすることで、変革の芽を摘んでしまっているのは私たち自身なのかもしれない。
※掲載原稿と若干変更する場合があります。