シリーズ『実践の糧』vol. 15

掲載:『つなぐ』寝屋川市民たすけあいの会,第212号,2014年2月.

実践の糧」vol. 15

室田信一(むろた しんいち)


年始の1月7日にNHKで放送されたクローズアップ現代にスタジオゲストとして出演させていただく機会を得た。放送のテーマは「“物語”の力が社会を変える」というもので、具体的には私が主催者の一員として昨年末に東京で開催したコミュニティ・オーガナイジング・ワークショップを取り上げる内容だった。

このワークショップでは、アメリカで草の根の市民活動に30年以上携わってきたハーバード大学のマーシャル・ガンツ先生を講師に迎え、市民活動を突き動かすリーダーシップのあり方と、そうしたリーダーシップを身につけて活動を推進する方法について3日間の講義と演習を提供してもらった。参加者は日本の各地で活動する市民活動家や社会福祉関係者、NPOの代表等であった。

放送当日は、コピーライターの糸井重里さんと共に、国谷裕子キャスターとコミュニティ・オーガナイジングについて話し合った。  その中で糸井さんから、社会的な活動が広がりをもつためには、活動そのものが魅力的であり、「商品としての価値」をもっていることが重要で、その価値がなければ社会的な活動に多くの人の賛同を得ることは難しいのではないか、という意見が出された。糸井さんのそうした指摘はもっともである。

それでは、その「商品としての価値」とはどのように決められるのだろうか。

たとえば、ある市民活動にボランティアとして支援するだけの価値があるかどうかの判断はどのようにくだされるのだろうか。それは頭で判断されるものだろうか、それとも心で感じられるものだろうか。私はその両方だと思う。

糸井さんは、その頭の部分を中心的に捉えてご指摘されていたように思う。つまり、市民活動を提供する側は、活動に参加する人に頭で納得してもらうように、その活動の価値を高めなければならないということだ。しかし、現代人の生活は多忙だ。どんなに納得のいくすばらしい市民活動であったとしても、その活動に協力するために具体的な行動に移すとなるとそのハードルは相当高い。

ガンツ先生の提唱されるコミュニティ・オーガナイジングの方法論では、活動を推進する人が自分自身の物語を語るということをとおして、すなわちなぜ自分がその活動に取り組んでいるのかということを語ることにより、他者の共感を得て、活動を展開していくということを重視している。つまり、心に訴えかけるということである。

社会福祉の活動をしていると、社会にとって当然の「いいこと」をしているのだから、公的な支援や人の支援を受けて当たり前と思ってしまうことがある。そこに物語が加わることで、実はそうした支援の輪はさらに強く広がる可能性がある。

※掲載原稿と若干変更する場合があります。

実践の糧