掲載:『つなぐ』寝屋川市民たすけあいの会,第219号,2015年4月.
「実践の糧」vol. 22
室田信一(むろた しんいち)
日本のソーシャルワークの源流をたどると、イギリスやアメリカからほとんど遅れをとることなく、19世紀の後半には一部の地域で先駆的な実践が始まっていた、という見解がある。ただし、全国的にソーシャルワークの実践が展開されるような仕組み作りとなると、1990年代からようやくその準備が始まったという見方が強い。2000年代以降になると、高齢福祉分野を皮切りに相談援助を専門とするワーカーを地域に配置する政策が推進されるようになり、いよいよ今年度から生活困窮者自立支援事業や地域包括ケアシステムの構築に向けた諸施策、子ども・子育ての支援制度が始まり、「支援員」や「コーディネーター」と名のつくワーカーが全国各地、様々な分野で配置されるようになる。
ようやく日本もソーシャルワーカーがいる社会になりつつあると言えるのかもしれない。しかし、最初にコミュニティソーシャルワーカーなどのワーカーが地域に配置された時には、それまで日本で相談援助を担ってきた福祉分野の行政職員や関連機関の相談員、民生委員などはソーシャルワーカーがいる社会というものに慣れていないため、海のものとも山のものとも思えないその存在とどのように付き合っていけばいいのかわからずに戸惑っていたことが思い出される。
たとえば、ある地域に地域包括支援センターがあり、同じ地域の別機関にコミュニティソーシャルワーカーが配置されている場合、「どちらの機関に相談すればいいのかわからない」「ややこしい」「一元化してほしい」といった言葉をよく耳にした。これからは、一つの地域にいろいろなワーカーが、いろいろな形態で、いろいろな財源によって配置される時代になっていくだろう。また、かつてのように高齢に関わる相談はA機関、障害に関わる相談はB機関、というような考え方ではなく、地域で相談援助を担う機関はあらゆる相談の最初の受け皿となり、必要に応じて他の機関と連携し、お互いに協力しながら、複合的な観点で相談援助を提供するような仕組みになっていくだろう。
そこで相談援助に携わるソーシャルワーカーには、地域の中にどのような事業所があり、どのようなサービスを提供しているのか、めまぐるしく移り変わる現場の実態を把握し続け、適切な情報に基づいて相談に乗ることが求められるだろう。さらには、地域の状況を俯瞰的に捉え、その環境を変えるための働きかけも求められる。そのためには、高度なコミュニケーション能力と連絡調整能力、ネットワークを創り出す能力、状況を分析する能力が求められる。
しかし、それらの能力を身につけるための教育や研修の方法が確立されているかというと、甚だ疑問である。次回は、今の時代のソーシャルワーカー養成に求められる教育・研修について言及したいと思う。
※掲載原稿と若干変更する場合があります。