掲載:『つなぐ』寝屋川市民たすけあいの会,第228号,2016年10月.
「実践の糧」vol. 31
室田信一(むろた しんいち)
私はニューヨーク市のセツルメントで移民コミュニティのオーガナイザーとして働いていた。私の仕事は、彼らが移民として感じている生きづらさや、彼らが生活の中で権利を侵害されたと感じることなど、彼らの話を聞き(つまり、アセスメントして)、その課題に対して集合的に働きかけるためのリーダーを養成し、彼ら自身が活動の目標を掲げることを支援し、その活動を側面から支援するというものであった。前号の表現を引用すると、移民の彼らに「その気」になってもらうための触媒としての役割を果たしていたことになる。
そのようにボトムアップで意思決定をして活動に取り組むこともあれば、一方で、他の関係機関から提案された目標に向かって活動に取り組むこともある。たとえば、移民支援の中間支援団体から人権侵害の問題に対してアクションを起こすので、協力の要請がかかることがある。具体的には、○月○日に開催される集会に、当事者である移民を何人動員できるかといった要請である。
草の根の活動だけで政治的な変化を生み出すことは容易ではないが、小さな団体同士が連合体を組み政治的な圧力をかけることで変化を生み出す可能性は高まる。キャンペーン成功の鍵は、どれだけ多くの当事者を動員して、政策決定者である政治家や官僚に「無視することはできない」と思わせることである。より多くの当事者を動員することがコミュニティ・オーガナイザーの評価につながる。つまり、どれだけ多くの人に「その気」になってもらうかがオーガナイザーの手腕になる。取り組みの内容は異なるが、日本のコミュニティワーカーや生活支援コーディネーターが住民に「その気」になってもらうように働きかけることと原理的には同じである。
私にとってコミュニティ・オーガナイザーが天職だと感じたのは、この「その気」になってもらう働きかけが得意だったからである。働きかけようとしている課題が、当事者である移民の生活にどのように影響を及ぼすのか、なぜ影響を及ぼすのかについて丁寧な対話を繰り返した。あくまでも当事者である彼らの声を尊重して、意思決定を重んじた。強引な動員は絶対にしなかった。そうした手続きを重んじることが結果に結びついた。私がコミュニティ・オーガナイザーとして勤務してから市内の大きな集会などにコンスタントに動員することができ、中間支援団体からも一目置かれるようになった。
優れたコミュニティ・オーガナイザーがいることで、その団体に関わっている当事者はそれだけ自分たちの声を政治に反映することができる。声を反映させるそうした手続きは、中間支援団体による政策提案と政治的交渉、草の根団体による当事者の動員というように分業化されている。現代社会の政治的な意思決定のペースは早く、そのペースに合わせて当事者は「その気」になり、動員に加担する。
社会が回転するペースに合わせなければ、住民や当事者は社会の動きから取り残されていく。そのため、橋渡しをする役割がオーガナイザーやワーカーの仕事であるが、そのペースを住民や当事者に課すことは正義なのだろうか。避けることのできないジレンマだった。
※掲載原稿と若干変更する場合があります。