シリーズ『実践の糧』vol. 7

掲載:『つなぐ』寝屋川市民たすけあいの会,第204号,2012年10月.

実践の糧」vol. 7

室田信一(むろた しんいち)


「プロセス(過程)とプロダクト(成果)の両方を得るためには、あらかじめ計画を立てる必要がある。」これは私がアメリカに留学していた頃の恩師であり、元・全米ソーシャルワーカー協会会長でもあったテリー・ミズラヒ先生が示されたコミュニティ・オーガナイジングのための原則の一つである。原則とは、いたって当然のことが書かれているものである。そのため、それを目にしてもあまり心に響くことはない。しかし、実践を積み重ねる中で、その原則がいかに重要であるか、またその原則を守ることがいかに困難であるかを痛感することがある。そのとき、原則の重要性が再認識される。

過程と成果はどちらも重要であるが、実践の場においてはどちらか一方を優先することが少なくないだろう。通常、過程とは主観的に評価され、成果とは客観的に評価される。過程を重んじるとき、参加者が満足しているかということを意識し、成果を重んじるとき、その活動が社会的にインパクトを与えるものかということを意識する。参加者全員が満足いくまで丁寧に議論を積み重ねることは多くの時間を要する。その一方で、社会的な評価は一定の時間的制約の中でくだされる。過程を重視しすぎることで、成果が伴わなくなり、結果として参加者の満足度が低くなることもあれば、成果を重視するあまり、参加者の満足度が低くなることもある。重要なことは、両者のバランスをいかに構築するかということである。

ミズラヒ先生はそのためには計画を立てることが重要だという。それも単に「計画を立てる」ということではなく、そのなかで1)現実に即した詳細な計画を立てること、2)初期に掲げた期待値を修正すること、3)計画にかかわる関係者と共に優先順位を定めること、4)誰がその計画を支持しているのかを明らかにすること、の4つの方法を提示している。

これもまた、当然のことのように聞こえるかもしれない。しかし、この当然のことがなかなかできない。できない理由をあげることは難しいことではないだろう。政府による政策の方向性が定まっていないからとか、人材が足りないから、地域特有のこじれた人間関係があるから、場合によっては、一度定めた目標を修正することはできないから、というがんこさが理由かもしれない。

そんな状態に陥り、方向性が見えなくなったときこそ原則が役に立つだろう。原則の中に、現状を打開するヒントが隠されているかもしれないし、自分たちの取り組みを再評価するための材料が埋まっているかもしれない。

※掲載原稿と若干変更する場合があります。

実践の糧