シリーズ『実践の糧』vol. 6

掲載:『つなぐ』寝屋川市民たすけあいの会,第203号,2012年8月.

実践の糧」vol. 6

室田信一(むろた しんいち)


 今回はアメリカの「アドボカシーの日」について書きたい。

「アドボカシーの日」とは、社会サービスの受益者が中心となり議会を訪問する日のことである。私はニューヨーク市内のある地域において移民を対象に権利教育やコミュニティの組織化を推進するプロジェクトにかかわっていた。そのため、年に数回はバスをチャーターし、コミュニティの代表者数十名と共に州議会や連邦議会を訪問した。ニューヨーク市内には移民を対象に活動するNPOが多数存在し、同時にそれらのNPOを支援する中間支援組織がいくつか存在する。その中間支援組織が「アドボカシーの日」をコーディネートするのである。私は移民グループの「アドボカシーの日」にしか参加したことはないが、「高齢」や「若者」などの分野ごとに同様の活動が存在する。

 「アドボカシーの日」では何をするかというと、たとえばニューヨーク州では州議会があるAlbanyという州都を数百名におよぶ当事者が訪問し、州議会議員を表敬訪問する。訪問先の議員は通常移民コミュニティの支援に積極的な議員達で、グループによる訪問を歓迎してくれる。20人ほどのグループに分かれて議員の部屋に押しかけ、当事者を代表して、日頃の社会サービスによってどれだけ多くの移民の生活が支えられているか、感謝の意を伝える。さらに、中間支援組織が用意した政策案を提示し、それらの案に対する支持を求めるのである。政策案とは、たとえば現行のサービスを手厚くするための予算案や、移民の権利に関する法案等である。あたかもロビー活動のように聞こえるかもしれないが、アメリカではこうした当事者による訪問をロビー活動とは異なるものと定めている(ただし、同様の効果が期待される)。

 参加者の一日はめまぐるしく過ぎていく。朝5時にニューヨーク市を出発するバスに乗り、到着後に全体集会、その後30分刻みで次々に議員を訪問し、最後にメディアを集めて庁舎前で集会をおこなう。帰宅は夜中である。

 そのような「アドボカシーの日」を開催することで、議会の中に移民重視の政策を推進する気風がつくり出される。また、既存のサービスや制度を削減させないような抑止的効果も発揮される。

 一方で参加者は、自分たちが普段恩恵を受けている社会サービスがどのような政治的プロセスを経て提供されているのかを、身近なこととして理解することができる。

 このようにして、間接民主主義の仕組みを市民にとってより身近な仕組みになるよう生まれ変わらせることもソーシャルワーカーの大事な使命である。

※掲載原稿と若干変更する場合があります。

実践の糧

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