シリーズ『実践の糧』vol.25

掲載:『つなぐ』寝屋川市民たすけあいの会,第222号,2015年10月.

実践の糧」vol. 25

室田信一(むろた しんいち)


こんにち求められる地域の実践とはどのようなものであり、そうした実践にとってどのような研修が必要かについて考えてきた。今回は、いよいよどのような研修の仕組みが必要かをお伝えしなければならないが、これは思ったほど簡単ではない。

従来の知識を伝達するタイプの研修ではない、ということは言えても、この記事の中で具体的なプログラムを示すことは難しい。そこで、研修に求められる重要な要素を一つ取り上げたい。

それは「質問する力」を養うための訓練が含まれていることである。「質問する力」というのは、相手がなぜある考えに至ったのか、その思考の中身やプロセスを追求するための質問であり、クリティカル・シンキングを生み出すための質問と言える。社会福祉の教育が従来から重視してきた自己覚知にとって、クリティカル・シンキングは必須と言える。ところが、そのクリティカル・シンキングのトレーニングが、実践と結びつけて考えられることは多くない。

実践の場面に即して「質問する力」を養うためには、研修の中で質問する方法を教えることが重要である。私が提供する研修では、よくロールプレイの振り返りの進め方において質問する方法を教えている。

例えば、3人一組になり、ワーカー役と相談者役、観察者役に分かれてロールプレイをおこなう。観察者役はロールプレイの間におこなわれる細かなやり取りをメモする。ロールプレイ終了後に観察者役はワーカー役と相談者役の会話で気になった部分について質問をする。例えば、ワーカー役に対して「借金の額はどれくらいですか、と聞いていましたが、それはどのような意図があったのですか」と質問する。ワーカーは何らかの意図があってその質問をしているはずである。もしくは、質問することによって、何も意図していなかったということが明らかになるかもしれない。もし何か意図していたとしたら、その意図が果たして効果的だったのか、その事実を相談者役の人に質問することで確認できる。「ワーカー役の人から借金の額について聞かれた時、どのように感じましたか?」この質問に対する相談者役が感じた思いを話してもらうことで、日々の相談援助における何気ない言葉の使い方や話の運び方が、相手にどのように受け取られているのかについて意識的になることの重要性に気がつくと思う。

そうした「質問する力」は研修の中に限らず、日々の実践の中でも重要である。自分がおこなっている相談援助の進め方、他機関との連携の進め方、職場内での調整の進め方など、意図はなんだったのか、その意図は相手に伝わったのか、と自問自答することが求められる。「一つの正解」が無い地域の実践だからこそ、そのようにして不確実性の中で行動する力が養われなければならない。

※掲載原稿と若干変更する場合があります。

実践の糧